
セブ島のバジャウ村では、その日の食事を買うお金を、その日に稼いで生活している家庭がほとんどです。
朝になると、アクセサリーを売りに行く人、集めた廃材を売る人、観光地で旅行者を案内してチップをもらう人など、それぞれが仕事に出ます。
毎日必ず収入があるわけではありません。稼げなければ、家族は十分な食事を取れません。
仕事でいくらか稼ぐことができれば、妻や家族と近くの市場へ向かい、米や魚など必要な食材を買って帰ります。
基本的に、そのとき手元にあるお金で家族一食分だけを買い、それ以上を買う余裕はありません。
これが村の家庭に共通して見られる食生活です。
今日稼いだお金で、今日食べるものを買う。
そんな生活の中で、米、コーンライス、キャッサバ、魚などを家族みんなで分けて食べています。
私自身、この村で生活しながら毎日の食事を見てきました。
この記事では、バジャウ族の人たちが普段何を食べているのかだけではなく、食材をどう手に入れ、どう料理し、家族でどう分けて食べているのかまで、現在の村での暮らしと一緒に紹介します。

【写真①:バジャウ村の普段の食事】
主食は米・コーンライス・キャッサバ
村で主食としてよく食べられているのは、米、コーンライス、キャッサバです。
どれを食べるかは家庭やその日の状況によって違います。
【写真②:米・コーンライス・キャッサバ】
特にキャッサバは、現在でも日常的に食べられています。
村の中では毎日のようにキャッサバを加工している人がおり、完成したものを販売している人もいます。
年齢による違いもあり、若い世代より年配の人たちの方がキャッサバをよく食べています。
ただし、現在キャッサバを食べる理由は、単純に「伝統食だから」というだけではありません。
米を買うお金が十分にないため、キャッサバを主食にする家庭もあります。
バジャウ族の主食「キャッサバ」とは?
キャッサバは、見た目はサツマイモのような細長い芋に近い植物です。
世界の熱帯地域で広く食べられていますが、生のキャッサバには体内で有害なシアン化物を生じる成分が含まれているため、そのまま食べることはできません。
そのため、村でもいくつかの工程を経て食べられる状態に加工します。
まずは、カルボンマーケットでキャッサバを仕入れます。

【写真③:仕入れたキャッサバ】
最初にナイフを使って皮を削ります。

【写真④:キャッサバの皮を削っているところ】
その後、機械を使って細かく粉砕します。
【写真⑤:キャッサバを粉砕しているところ】
さらにプレスして水分をしっかり抜きます。
水分を抜いた状態では、食パンのような大きなかたまりになります。
【写真⑥:プレスして水分を抜いたキャッサバ】
それを崩しながらフライパンで炒めていくと、細かくパラパラとした状態になります。
見た目は米にも少し似ています。
【写真⑦:フライパンでキャッサバを炒めているところ】
【写真⑧:完成したキャッサバ】
味は強くなく、少し酸味があります。
キャッサバだけで食べるより、小さな魚などのおかずと一緒に食べることが多いです。
【写真⑨:キャッサバと魚の食事】
日常のおかずは小さな魚
バジャウ村の日常的なおかずで、最もよく見るのが魚です。
特に多いのが、小さな魚を油で揚げたものです。
米と小さな魚一匹。
それだけで一食になることも珍しくありません。
【写真⑩:小魚一匹と米の普段の食事】
魚の調理方法で一番多いのはフライです。
次によく見るのが魚のスープ。
少し大きめの魚なら、焼いて食べることもあります。
【写真⑪:小魚を油で揚げているところ】
【写真⑫:魚のスープ】
【写真⑬:魚を焼いているところ】
自分たちで獲った魚だけを食べているわけではありません。
市場で魚を買って食べることも多くあります。
また、漁で大きな魚が獲れた場合、売れる魚は販売に回し、小さな魚を自分たちで食べることもあります。
大きな魚を家庭で食べるときは、一匹を家族みんなで分けます。
生魚については、少なくとも私がこの村で生活している中では、食べているところをほとんど見たことがありません。
味付けは塩・生姜・レモングラスが中心
料理の味付けは比較的シンプルです。
よく使われるのは塩や生姜。
魚のスープなどには、レモングラス(タングラッド)もよく使われます。
【写真⑭:魚のスープに使う食材】
周辺のセブアノの料理では、玉ねぎやトマトなどを使ったソースやさまざまな調味料を合わせて食べる料理もよく見かけます。
それと比べると、私が暮らしているバジャウ村の日常料理では、複雑な味付けはあまりしません。
昔はココナッツミルクもよく使っていたそうですが、現在では以前ほど使われていません。
肉はかなり特別な食べ物
普段の食生活の中心は魚です。
鶏肉を食べられることはありますが、日常的な食事ではありません。
豚肉や牛肉については、私が村の日常生活の中で食べているところをほとんど見たことがありません。
理由の一つは価格です。
肉を買うお金があれば、より日常的に必要な米や魚などが優先されます。
そのため、肉は普段のおかずというより、かなり特別な食べ物です。
野菜もほとんど食べない
野菜も日常の食卓にはあまり登場しません。
魚のスープにトマトやオクラが少し入ることはありますが、日本のようなサラダを食べているところはほとんど見かけません。
【写真⑮:トマトやオクラが入った魚のスープ】
特に子どもたちは、野菜をほとんど食べないこともあります。
そのため、村で炊き出しのお粥を作るときには、野菜を細かく刻んで入れるなど、できるだけ子どもたちにも食べてもらえるよう工夫しています。
【写真⑯:野菜を細かく入れた炊き出しのお粥】
普段よく見る5つの食べ物
村の日常生活で特によく見かけるのは、
- ドライフィッシュ(干物)
- 魚のスープ
- 焼き魚
- 魚フライ
- 缶詰・カップ麺・スナック菓子など
です。
【写真⑰:ドライフィッシュ】
【写真⑱:魚フライと米】
【写真⑲:サリサリストアの缶詰・カップ麺・スナック菓子】
おかずを十分に買えない日には、卵を一つだけ買って家族みんなで分けて食べることもあります。
さらに食べ物を買うお金がない日は、子どもがスナック菓子だけを食べていたり、キャッサバとスナック菓子だけで過ごしたりすることもあります。
そして、本当にお金がなければ、食事そのものを取れないこともあります。
朝はコーヒーとパンから始まる
日本のように、毎日きっちり朝・昼・夜の3食を食べるとは限りません。
よく見るのは、朝にコーヒーとパン。
【写真⑳:朝のコーヒーとパン】
その後、午前中に米やキャッサバと魚を食べ、夕方にもう一度食事をするパターンです。
朝はコーヒーだけで済ませる人もいます。
午前と夕方の食事も大きく内容が変わるわけではなく、小さな魚と米、キャッサバなど、似たようなものを食べることが多くあります。
冷蔵庫がほとんどないため、その日に買って食べる
村では冷蔵庫を持っている家庭がほとんどありません。
村人たちの間では約3,000人が暮らしていると言われるコミュニティですが、私が把握している範囲では、冷蔵庫がある家庭はごくわずかです。
そのため、何日分もの食材をまとめて買い、冷蔵庫へ保存する生活ではありません。
【写真㉑:村の近くで食材を買っている様子】
その日の仕事でお金が入ると、夕方に家族と買い物へ行く。
魚や米など必要なものを買って帰り、その日のうちに料理して食べる。
朝にも必要なものを買いに行くため、1日に2回ほど買い物へ行くこともあります。
食材を長く保存するというより、買ったものをその日のうちに食べるのが基本です。
料理は家の床でする
バジャウ村の海上住宅には、日本のようなキッチン設備はほとんどありません。
多くの家庭では、家の中の床にガスコンロを置いて料理します。
【写真㉒:家の床で料理している様子】
現在は、ちょっとした調理にはガスを使うことが多くなっています。
一方、大きな魚を焼いたり、大鍋で料理したりするときには、家の外で火を起こします。
【写真㉓:家の外で火を起こしているところ】
炭を使うこともありますが、そのためには炭を買わなければなりません。
実際に村でよく目にするのは、周辺で拾った枝や、使わなくなった木材・建築廃材などを燃やして魚を焼いている光景です。
【写真㉔:拾った木や廃材を燃料にしているところ】
【写真㉕:その火で魚を焼いているところ】
昔は薪で料理するのが一般的でした。
現在はガスも使われるようになりましたが、今でも身近にある木材を燃料として利用しています。
大皿を囲み、全員が手で食べる
日本人がバジャウ村の食事を見て、特に驚くことの一つが食べ方です。
基本的に、みんな手で食べます。
米やキャッサバ、魚などを指で取り、そのまま口へ運びます。
【写真㉖:手で食事をしている様子】
そして、一人ひとりに料理を取り分けることも基本的にはありません。
大きな皿や容器に米やキャッサバ、魚などをまとめて入れ、家族みんなで囲みます。
【写真㉗:大皿にまとめられた普段の食事】
食事が始まると、みんなが同じ皿へどんどん手を伸ばします。
誰かが触った場所だから避けるという感覚もあまりありません。
一つの料理を家族みんなで共有して食べます。
【写真㉘:家族みんなで大皿を囲んで食べているところ】
家庭によっては、父親が先に魚の良い部分を食べることもあります。
私自身、最初はこうした食べ方に驚きましたが、この村で生活していると、手で食べることも同じ皿を囲むことも日常の光景になりました。
食べ物が足りないときは家族・親族で分ける
その日の仕事で収入がなければ、食事を買えないことがあります。
そんなときに頼るのが、近くに暮らす家族や親族です。
食べ物に少し余裕があれば、まず自分の家族。
次に両親。
そして近くに暮らす親族へ分けます。
特に高齢者や子どもには、食事を分けることがあります。
【写真㉙:親族同士で食べ物を分けている様子】
バジャウ村では親や兄弟、親戚がなるべく近くに暮らしているため、食事の面でも助け合うことができます。
ただし、誰にでも食べ物を配れるほど余裕があるわけではありません。
血縁関係のない人にまで分けられるほど食事が余っていないのが実情です。
少ないお金でも買えるサリサリストア
村の中には、小さなサリサリストアがたくさんあります。
ここでは食べ物だけでなく、調味料、シャンプー、タバコ、お菓子など、生活に必要なものが細かく分けて売られています。
【写真㉚:村内のサリサリストア】
例えばタバコなら1本。
シャンプーなら小さな1袋。
調味料も少量だけ購入できます。
まとめて購入するより割高になりますが、まとまったお金を持っていなくても、そのとき必要な分だけ買うことができます。
食べ物やお酒などをツケで購入することもあります。
今お金がなくても商品を受け取り、あとでお金が入ったときに支払います。
Jollibeeも「ツケ」で売りに来る
村の外から食べ物を売りに来る人もいます。
例えば、セブの人がJollibeeなどで食べ物を買って村まで持ってきて、それを住民に販売することがあります。
【写真㉛:村に食べ物を売りに来ている様子 ※撮影できれば追加】
これも、その場で現金を払うだけではなく、ツケで購入することがあります。
もちろん、直接店で買うより割高です。
それでも、そのとき手元に現金がなくてもすぐに食べられるため、利用する人がいます。
サリサリストアの小分け販売やこうしたツケでの販売も、毎日決まった収入があるわけではない村の生活と結びついています。
結婚式では伝統的なお菓子も作る
普段の食事とは違い、結婚式などのお祝いでは伝統的な食文化も見ることができます。
その一つが、Pan yam(パンヤム)です。
ホットケーキや揚げ菓子に近いような食べ物で、結婚式などで作られます。
【写真㉜:Pan yamを作っているところ】
【写真㉝:完成したPan yam】
ほかにも、Daral(ダラル)やBaulo(バウロ)など、お祝いの席で作られる伝統菓子があります。
【写真㉞:DaralやBaulo】
結婚式では、Pahanda(パハンダ)と呼ばれるお祝いの贈り物もあります。
新郎側がお米、パン、ソフトドリンクなどを用意し、新婦側の家族へ持っていきます。
【写真㉟:Pahandaで食べ物を運んでいるところ】
誕生日については、昔は現在のように祝う文化はあまりなかったそうです。
現在は誕生日に人が集まり、「おめでとう」と祝う家庭もあります。
ツアーで出している食事は、普段より少し豪華
バジャウ村のツアーで日本人と一緒に食事をするときは、普段の村の食事をそのまま出しているわけではありません。
実際の日常食は、米やキャッサバと小さな魚だけということもあり、かなりシンプルです。
ツアーでは、自分たちで獲った魚や貝、スープ、フルーツなども用意しています。
【写真㊱:ツアーで用意している食事全体】
また、普段は大皿をみんなで囲みますが、日本人が参加するときは食器も一人ずつ分けています。
【写真㊲:ツアー参加者と食事をしている様子】
普段の食生活とは少し違いますが、村の人たちと一緒に食べ、魚や貝など現地の食材を味わえるようにしています。
「今日食べるもの」を今日手に入れる生活
バジャウ村の食生活は、単に「魚やキャッサバをよく食べる」というだけでは説明できません。
朝、仕事に出る。
アクセサリーを売る。
廃材を集めて売る。
観光地で旅行者を案内する。
その日の仕事でお金が入れば、家族と市場へ行き、米や魚を買う。
そして、その日のうちに料理して家族みんなで食べる。
収入がなければ、親や親戚から食事を分けてもらうこともあります。
それでも食べ物がなければ、食事を取れない日もあります。
今日稼いだお金で、今日食べるものを買う。
米、魚、キャッサバ、手で食べる習慣、大皿を囲む家族の食事。
その一つひとつが、現在のバジャウ村の暮らしと深く結びついています。

